かなな著
・・・・気がつくと、優斗の顔がそばにあった。芽生の体はソファの上に横たえられていて、彼に抱きとめられている状態だった。
「大丈夫かい?」
心配げに聞いてこられて、芽生は頭を振って、フラフラと起き上がる。
「…大丈夫みたいだけど・・。」
地に足付かないとは、この事だろう。
フワフワ、心もとないしぐさで立ち上がろうとする芽生の様子に、優斗が無理矢理といった感じで、自分の胸元へ引き戻す。
「もうちょっと休んどけばいいよ。・・・ここは元生徒会室で、俺達以外入ってこない部屋だから・・。」
と説明してくれた。
「安心してね。小林雅の霊は、除霊できたみたいだよ。」
耳元で、雅也らしい声がするので、顔をあげると、彼はいた。
優斗を見た後の青木の顔は、ビックリするほどのギャップがある。けれど、外見に反して、彼の優しさは除霊の際の行動を見ればわかった。
「青木くん。・・・ありがとう。稔さんは?お礼も言わないと・・。」
透き通る少年の姿を探してつぶやく芽生に、青木は首を振って
「・・・もういないよ。あの人には、僕から言っておくから。まずは、松浦さんの体だね。
無理やり貼りついてた霊を、もぎ取ったから、松浦さん側の体の負担も大きいはず。」
と言ってこられた通り、すぐには立ち上がれないほどの体のだるさだった。
同時に、雅の事を思い出す。
おかしくなってからの彼女ではない。小学生の頃よく遊んでいた、少女の姿をだった。
鬼ごっこでは、いつも鬼役になった彼女は・・。
とても臆病で、優しい少女だったのだ。
彼女とは、家も近所だったせいもあって、よく一緒に家路についたものだった。
行き帰りの時に、ちょっとした遊びをしながら、帰った彼女との優しい時間は、純粋に楽しかった。人形遊びもよくしたし、もう少し大きくなってからは、ゲームのソフトの交換もして遊んだ・・。
「雅は・・友達だったのに・・」
彼女はもういない。
ポロポロ泣き始める芽生に、動揺した優斗が、あわてて肩を抱く。
「ごめんよ・・。」
言葉を詰まらせ、優斗が言った瞬間。学校のチャイムがなった。
「・・・・そろそろ戻るわ、俺・・。」
立ち上がって言った青木に、
「あぁ・・ありがとな。青木。迷惑かけて・・。」
芽生を抱きながら、こっちもあっちも・・と視線を泳がせる優斗の姿に、クスクスと笑って、
「俺はいいから・・・もう泣かすなよ。」
と言い置くのを、真剣な表情でコクリとうなずいた優斗は、
「肝に銘じるよ。」
と、一言つぶやいた。
その答えに納得したのだろう。青木はニッコリ笑ってうなずいて、部屋を後にしたのだった。